2017年2月23日、雑誌『GINZA』編集長の中島敏子さんとベイクルーズ取締役の森秀人さんをお迎えして、「ライフスタイルとファッション」をテーマにトークイベントを開催しました。その模様を2回にわたってご紹介します。前編では、お二人のファッションの原点や休日の洋服の選び方、お気に入りの洋服についてうかがいました。
目次
服が服だけで完結しないのがファッション
弊社代表井下(以下、井下) お二人はどういうきっかけでファッション業界に入られたのでしょうか。
森取締役(以下、森) 中学1年生のときに映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』を見て、アメリカの1950年代のライフスタイルとかファッションに衝撃を受けたんです。それをきっかけに中学から古着をあさったり、アメ横でインポートを買ったりしたことが自分のファッションの原点ですね。
井下 『バック・トゥー・ザ・フューチャー』の世界観は、森さんにとって衝撃的だったんですね。中島さんのきっかけも教えてほしいです。
中島編集長(以下、中島) 私は中学から大学までずっと私服通学だったこともあり、洋服が大好きだったんです。土日は吉祥寺でずっと洋服探しているような子どもでした。ファッションは好きだったけどアパレル業界に行かなかったですし、ファッション誌を目指したわけではないんです。マガジンハウスに入っても『ブルータス』とか『リラックス』というわりとメンズ畑のカルチャー誌を担当していました。なので、『GINZA』に抜擢されたのは青天の霹靂でした。
『GINZA』でファッション業界に触れたら、本当にびっくりすることばかりでした。いつ服を作って流通させるとか、パリコレで発表したりとか、独特ですよね。でも結局、世の中の人たちにはそういうのは関係なくて、ミュージシャンが好きだからロックTを着るといった人たちが多い。だからこそ、ファッションと他の分野のカルチャーを繋ぐ役割の雑誌を作ろうと思ったのが、いまの『GINZA』なんです。
井下 なるほど。お二人の話を聞いていると、服は映画や音楽といった他のカルチャーの影響を受けることが多いから、服単体では完結しないということがよくわかりますね。
ファッションはライフスタイルの一部であり、すべてである
井下 お話をうかがっていると、お二人はライフスタイルとファッションは切っても切り離せないものと考えていらっしゃるように思います。お二人はご自身のライフスタイルのなかで、どのようにファッションと付き合っていらっしゃいますか?
森 ベイクルーズは会社ができて40年近く経つんですけれども、ずっとファッション一筋で展開してきました。ビームスさんやユナイテッドアローズさんにシャツを卸したところから会社は始まって、自分たちでもセレクトショップを始めたんです。 日常生活の中で、洋服を着ることで気持ちが上がったり、安らぎを得たりするのがファッションのいいところだと思うんですが、広義に捉えるとライフスタイルそのものもファッションじゃないかって思うんですよね。そこで、2000年ぐらいを機にフード業界に参入し、その流れで家具やインテリアブランドも展開しています。ですので、ライフスタイル=ファッションだとベイクルーズは捉えていますね。
井下 ファッションはライフスタイルの一部であり、すべてであるということですね。洋服を着ることで心が動くとか、気持ちが上がるとか、人に会いたくなるとか、それはまさにライフスタイルの一部。そういう体験を得るほど、人は幸せになれるのかなと思いますね。中島さんはいかがですか。
中島 2011年に『GINZA』をリニューアルしたときから続けている定例ページで、「ファッション調査隊」というページがあるんです。人が何かを着ている以上それは全部ファッションである、という考えのもとに始めました。なかにはすごくトリッキーな企画もあって、クケリっていう面白い奇祭のビジュアルを「これもファッションだ」と言って調査することもあります。
つまり、服飾が皮膚にまとわりついてあるものは全部ファッションなんです。それを見る人と着る人の間にコミュニケーションが生まれる。もちろん、家の中で一人で閉じこもって着たり脱いだりしている人もいると思うんですけど、ファッションってやっぱり社会性がないと成り立たない。そういう意味で、ライフスタイルそのものが私の考えるファッションだと思っています。
井下 ファッションだけではなく、クリーニングもライフスタイルと深い関係があると思っています。クリーニング自体は古くからアパレル産業を支える一つの分野ではあったんですけど、弊社が展開する”自宅にいたままクリーニング”のような業態が登場することでライフスタイルを変革をすることができる。そういう意味で、クリーニングもライフスタイルの中で再定義できると思うんです。だからこそ、先輩方から学ばせていただきたいと思って、今日のセッションを設けました(笑)。
気分を切り替えるために服を選ぶ
井下 たとえば家で誰にも会わなくて、仮に家の中の温度が適温で裸でもいいってなったら、服を着るモチベーションは上がるものなんでしょうか。もちろん一人でいるときでも、いい服を着たらテンションが上がることもあるんですけど、人に会うってなったときのほうが気持ちが上がるような気がします。お二人は、オフの日や人にも誰にも会わないときは、どうやって服を選んでいらっしゃいますか。
森 僕は古着のスウェットのパンツが好きで、何もないときは、ダサい大学のロゴとか入ってるスウェットをはいています。休みの前の日や休みの日の朝とか、お風呂やシャワーの後にリラックスしたいときは、ハワイに行ったときに買ったふわふわのガウンを着ています。わりとお気に入りで、それを着るとゆったりできるんですよね。
井下 着るものによって気持ちが変わるわけですね。
森 子どもがいるんで、遊んだりするときは大体スウェットですね。本当に1人でリラックスしたり、音楽聴いたり、映画見たりしたいときは、ガウンを羽織ってますね。
井下 やっぱり服にはそういう意味があるってことですね。
中島 私の場合は、仕事柄、外に仕事に出るときは仕事服しか着ないので、家にいるときが一番素の自分に近い服ですね。家にいるときの服はデザイン性は関係ない服。難しいデザインがされていない何でもないような服なんだけど、家では肌触りがいいものを着ます。外に出るときは人の目があるのでイメージに合わせて着ています。そこは圧倒的に違うところですね。
着心地の良さもカッコよさも求めるのがトレンド
井下 中島さん、森さんから着心地の話が出て、リネットでTシャツをクリーニングに出されるお客さまの話を思い出しました。いままでTシャツをクリーニングに出したことがなかった方なのですが、リネットでクリーニングに出したところ「なんか着心地が違う」と熱弁されて「なんで今までクリーニングに出さなかったんだろう」って言われたんです。着心地ってやっぱり一つの価値なのかなって、改めて思いました。
中島 自分しか分からないちょっとした贅沢ですよね。写真には写らないですからね。
井下 他の方に伝えようとしてもなかなか伝わらないですよね。最近ベイクルーズさんが展開されている「EDIFICE」の服を買ったんですけど、そのときに店員さんとした会話が印象に残っているんです。ちょっと前にスウェットが流行ったんですが、今はスウェットよりもちょっとカッチリした服を求めている人が多いって話になったんです。着心地を求めてるんだけれども、やっぱりカッコイイ服が好まれるというか。これが人が求めてることなのかなぁと思ったんですよね。
森 ちょっと前はジャージ素材でワンマイル的なものが、家の中でも外でも境界なく着ることができるということでちょっとブームになりました。その頃よりも今の方が着心地だけじゃない洋服としてのちゃんとしたデザインを求めているのは感じますね。
お二人にとっての大切な服とは
井下 お二人にとってのお気に入りの服のエピソードを教えていただけますか。
中島 最初にコムデギャルソンのジャケットを買ったときのことをすごくよく覚えてるんです。大学生のときにお金を貯めて買ったんですけど、当時の私にとっては、それこそ清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちで買ったので、どこに行くにもそれ着てたんです。そのジャケットはくるみボタンが木みたいな変わった素材だったんですよね。そのジャケットをクリーニングに出したときに、そこがアルミホイルで巻かれて返ってきてビックリしたんです。ちょっとデザイン性のあるものはこういうケアがされるんだと思って。アルミホイルで人が1つずつ巻いてるってことに感動しましたね。ちなみにそのジャケットは20年着ました。
井下 心温まるエピソードですね。
森 大学生のときに、どうしてもビンテージのGジャンが欲しくて、宅急便屋さんで働いてお金をためて買ったんです。僕は「BONUM(ボナム)」っていうリメイクブランドのディレクターも担当しているんですが、今日着てるジャケットは、実はそのときに買ったGジャンをボナムでリメイクをしたもの。ジャケット自体は20年くらい経ってますね。ボロボロなんですけれど、僕の中で一張羅なので今日着てきたんです。
井下 森さんも、素敵なエピソードありがとうございます!
まとめ
意外なファッションの原点やライフスタイルとファッションの関係性など、興味深いお話ばかりでしたね。ファッションのプロであるお二人のトークはまだまだ続きます。後編では、大切な服を長く着続けることや今後の展開についてうかがいました。後編もお楽しみに!
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